加子母木匠塾のブログです。平成7年から当時の加子母村を拠点に、森林や林業と深い関わりのある地域で木造建築をテーマに、自然や地域社会の中に溶け込みながら、今までに延べ1000人以上の大学生が加子母で木造建築に真剣に向き合っています。


by 加子母木匠塾

9月4日 オンラインセミナー「加子母の林業と製材所について」

9月4日 オンラインセミナー「加子母の林業と製材所について」_e0409566_10142678.png

 9月4日に、「加子母の林業と製材所について」と題してオンラインセミナーを行いました。
2019までの木匠塾では、製材所や工務店の方に直接いろんなことを教えていただいていましたが、昨年からそういった機会が減ってしまいました。
今回は、加子母の林業の歴史であったり、コロナ禍における加子母林業の現状などをお話しいただき、大変勉強になりました。そのハイライトをご紹介します。
 現役塾生の方でフルの動画を見たい方はぜひ各大学の幹部に連絡してください!


今回お話いただいたゲストの方々

・加子母森林組合:安江恒明さん
加子母森林組合さんは、加子母全体的の森林整備から木材市場、木材加工まで一貫して行っている総合型の森林組合です。
9月4日 オンラインセミナー「加子母の林業と製材所について」_e0409566_10454911.png

・マルワイ製材所:日下部章さん            
マルワイ製材所さんは、加子母の中でも中核的な製材所で、毎年木匠塾の材料提供にご協力いただいています。
9月4日 オンラインセミナー「加子母の林業と製材所について」_e0409566_21255175.png

名城大学の活動について

 今年度、加子母木匠塾の活動は例年とは大きく変わりました。コロナ禍のなかで加子母に行けないという状況や、そもそも活動自体ができない大学があり、各大学の可能な範囲での活動という形になっています。
 名城大学も例外ではなく、大学のある名古屋を中心に活動を展開してきました。名古屋の中村区にある、中村公園でワークショップを計画したり、加子母の木材でバリケードを作ったりしています。
 そんな中村公園にある豊国神社の話題が上がりました。

豊国神社と加子母

 安江さんによると、豊国神社と加子母は約10年前からの付き合いがあり、看板や灯籠、鳥居は森林組合が作ったもので、新しい大きな拝殿もマルワイ製材所さんの材料供給と同じく加子母の辰喜建築さんの建設で建てられたというつながりがあるそうです。
9月4日 オンラインセミナー「加子母の林業と製材所について」_e0409566_21080571.jpg
↑辰喜建築さんホームページよりhttp://www.tatsukinoie.com/case/detail0050.html

 また、名古屋では今年、加子母の森林組合が名古屋の小学校に組み立て式の和室を納入するのだそうです。全50校あるなかで、森林組合は最多の17校に納入するのだそう。名古屋と加子母の深い関係はこれからも続いていきそうです。


ウッドショックとその影響

 コロナ禍において海外で建築需要が増大し、それにともなって木材が足りなくなって価格が高騰するという状況が生まれています。その現象はウッドショックと呼ばれ、加子母にも影響を与えているそうです。

 安江さん:去年の今頃、木材の価格はどん底で、赤字という例もあった。
 日下部さん:ウッドショックは年内で収束するかわからない。来年も難しいかもしれない。現状の木材価格はこれ以上上がると買えない人が多いために高止まりの状態で、120角や105角などよく使われる材などは価格が2〜3倍になっていることもある。今まで供給木材は 7:3=外材:国産材 という比率だったが、国産材の比率が高まって来ている状況。とは言っても切ればいいということではなく、木材を加工したり乾燥させる機器などの製材能力にも限度がある。外材が戻ってくれば少しは落ち着くのではないか。
 安江さん:高止まりではなく今も価格は上がっている。原木生産者や市場にとっては嬉しい価格と思う一方で、去年の今頃のどん底までは落ちないで欲しいが、少し下がってほしい。
 伊藤さん:木を切る量は増えているのか?
 安江さん:国や県は切れと言ってくるが、すぐにたくさん切る能力は作り出せない。山だけで生計を立てている人はいないし、組合で働く人達も都会からのIターン(元々その土地にゆかりのない人が移り住んで来ること)の人が多い。
 日下部さん:製材を今から始める人はいない。農業などとは違って何億という設備費が必要になる


製材所の減少と従事者の確保の課題

 現在日本では戦後の植林によって植えられた木が間伐の時期を迎えつつあります。間伐は木を程よく減らすことで、光が届かずに土がコケることを防ぐ効果や地すべりなどの災害を防ぐことにつながるため、全国で必要性が訴えられています。加子母でも、ここ10年は植林を行わず、間伐だけで成り立っているのだそうです。木材需要の増加も相まって林業従事者が必要されていますが、加子母はどうなのでしょう。

 日下部さん:15、20年前は約25軒ほどあった加子母の製材所は現在は約9軒にまで減っておりそのうち毎日稼働しているのはその半分程度。
 安江さん:戦後に植林された50~60歳の木が切り時を迎えていることもあって、補助は進んできている。3K(きつい、汚い、危険)は薄まりつつあるが、他産業に比べて一番死亡率が高いのは事実。Iターンで来た人で2年でやめてしまう人も多い。求人はどこもいっぱいやっているが、キツさに対してお給料も多くない。


「役物」の価値の低下

 加子母は古くから林業と寄り添ってきましたが、その加子母の伝統ある良質な木材は現在の需要とのギャップに苦しんでいるようです。

 安江さん:今「役物(節の無い良質材)」と節のある材の価格差が小さい。昔は、節ができないように枝をわざわざ切り落とす作業を行っていた。なぜ役物の価値が下がったかというと、「和室が減った」から。障子などは木の表面がみえるため、役物が必要とされていた。昔の人が手をかけた木が価値を持つことを期待している。
 日下部さん:役物の注文は減った。地元の工務店は木が見える住宅を建てるが、名古屋などの都市部の住宅は木材が見えるような住宅が少ないので、わざわざ役物を使わないようになった。昔は東濃ひのきもほかより高く売れていた。今もキレイな材は高く売りたい気持ちがある。


最後にお二人から

 日下部さん:コロナでやり方も変わってしまって一年で最もにぎやかで加子母の人口が増加するっていうのもお預けになっていますが、来れるときは連絡貰えれば山や製材所も見学できるのでぜひ来てほしい。木匠塾もこれからも後輩にうまく引き継いで続けていってほしい。
 安江さん:本当なら来てもらって山や森林組合の施設を案内するのが良いが、また2,3回生や後輩にはいつか加子母に来てほしい。卒業してからでもぜひ来てほしい。



 加子母木匠塾はコロナ禍において大きな転換期を迎えています。活動ができないからこそ、加子母のために何ができるだろうかと考えるきっかけになりました。昨年は渡合の再開発コンペが開催され、OBの方と交流をしながら加子母の将来を考える機会が生まれました。今年は各大学での活動に加え、こうしたオンラインセミナーで「加子母を知る」機会がうまれていると思います。こうして木匠塾が加子母に何ができるかを考えているなかで、日下部さんや安江さんの最後のお言葉で「木匠塾も続けていってほしい」「また加子母に来てほしい」と言っていただけたことは大変ありがたいことだと思います。
 これからも木匠塾を引き継いで行けるように頑張っていきたいと思いました。
立命館大学 4回生 2021年度広報リーダー 栗栖

by kashimokusho | 2021-09-20 22:38 | 2021年度